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数値限定発明についてTweets(7)

2012.06.20

>Tweets(6)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

3-2. 臨界的意義要求に対する対応

 しかしながら、特許出願においてできるだけ広い範囲を権利化しようとすることは当然のことである。また、必ず無効審判等が提起されるわけでもない。競合他社は係争ではなく本願特許の回避を選択することも十分考えられる。したがって、「正直ベース」の発明を上位概念化した発明の技術的思想(外堀)をできるだけ広く確保することは間違ってはいない。留意しなければならないのは、出願時に、潜んでいる公知技術が見えていないと外堀を掘っただけの明細書で出願してしまうことである。

 戦いと同じで、審査、審判あるいは裁判で外堀を破られてから中堀や内堀を掘ろうとしてももう遅い。たとえ本願に類似する公知技術は無いと思ったとしても、中堀および内堀をしっかり掘って出願することが後顧の憂いをなくす上で重要な点である。

 数値限定発明の場合は特に内堀を念入りに掘っておく必要がある。限定した数値範囲に存在する臨界的な効果を客観的に証明できる記載だけでなく、数値限定に連動する効果の測定条件、測定方法等(簡単に言えば、研究論文の実験の部に当たる部分)は詳細に記載しておくことが、後々大きな防御となる。自分が相手特許をつぶす立場になって考えれば判ることであるが、相手にとって障害が大きければ大きいほど、相手は徹底的にあら探しをしてくるからである。そして、当該測定条件、方法等が独りよがりのものであってはならず、その土俵で判断することに合理性があると認められるもので無ければならないことは、研究論文と同じである。

 4.まとめ

 数値限定発明に限らないが、審査段階では必ず類似特許が発見されることを念頭において、その布石を打っておかなければならない。

 正直ベースの部分については、くどいようであるが、正確に、他の解釈の余地が無い様に、そして誰が追試してもブレが無い様に客観的かつ詳細に明細書の中に記載しておくことが重要である。

 数値限定発明を特許出願する場合、なぜ数値限定するのかを良く考えることである。特に化学分野の特許の場合、「正直ベースの数値範囲」の外の部分は、実質的に価値があるのであろうか。熟慮する必要がある。あまり価値の無い部分を取り込むために無用に広い外堀を掘って、明細書中に齟齬を内包させるより、発見され得る公知技術をよく想定して、多面的に臨界的意義を持たせるよう内堀をしっかり構築することが重要であると思われる。 ・・・・完

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