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数値限定発明;判例検討(7)

2012.11.16

>判例検討(6)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

(5)落とし穴
 ということは、数値範囲で示されてはいるものの、発明であるとして主張していることは「重力下では流動し難く、容器のチューブを押したときには流動し易い水性接着剤」といっているに過ぎないことになります。これが困難であり、従来このような水性接着剤が無かったことは出願人自身が認めています。「だから、その数値をどうやって達成するんだ!」という声が、当業の技術者からあがりそうです。
 これを身近な例でたとえれば、「低燃費と高出力を両立する自動車」という課題に対して、発明として、「燃費が30~40km/ℓで、出力が200~300馬力(感覚的に判り易い馬力とします)の駆動装置を搭載した自動車」と記載するようなものです。これが発明を表していないことは説明するまでもないと思います。この場合の発明の本質は、「ハイブリッド機構、アイドリングストップ機構」等になるはずです。
 すなわち、本願は、目標値(願望値)を示しただけで、「ハイブリッド機構、アイドリングストップ機構」に相当する発明の本質を記載しなかった、という落とし穴に落ちていたことになります。
 特許庁が公表しているH20年度特許性検討会報告書においても、本事例を「実質的に願望や目標がそのままクレームされているような発明である。」との意見も示されています。
 しかしながら、本願の場合、目標を達成する発明品自体は確かに得られており、落とし穴に落ちてさえいなければ、少なくとも実際の発明品の保護はできたと思われますので、特許が認められない事態に至ったことは非常に残念なことです。

(6)落とし穴の原因
 自動車の例のような場合は、このような落とし穴に落ちることは無いと思いますが、「なぜ、そのような結果になるのか(なぜ、そのような効果を発揮するものが得られるのか)が、理論的にはよくわからないけれども、とにかく目的の発明品が得られた」という場合に陥りやすい落とし穴だと思います。
 特に、弁理士は「発明を技術思想として抽象化したり、上位概念化したりしてできるだけ広い権利範囲を確保」しようとしますので、理論が良く解明できていない発明については、弁理士がその分野の技術を本当によく理解していないと「目標を発明として記載」するようなミスリーディングをする危険性があります。
 理論がよくわかっていない発明については、発明者の方は、請求項の記載について弁理士に遠慮せず、とことん議論した方がよいと思います。 

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