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数値限定発明;判例検討(6)

2012.11.08

>判例検討(5)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

2-3.観点(b)について
 観点(a)については上記の通りですが、観点(b)については、判決においてほとんど触れられておらず、判断もなされていません。
 観点(a)については、特許明細書(特許第3522729号)と判決文を読んでいただければ、当該結論は妥当であると判断できると思いますので、観点(b)について私見を述べたいと思います。

 そもそも、上記①および②の数値限定は「特許発明を規定」しているのでしょうか。
 このことを考えるに当たって、従来技術の問題点、そしてそれに対する本願特許発明の課題・目的から順に考えていきたいと思います。簡潔に記載しますので、明細書通りの表現ではないこともあります。

(1)従来技術の問題点
 「酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤(以後、単に水性接着剤という)」において、垂直面や天井に塗布したときの垂れにくさと、手でチューブ状容器を押したときの容器からの押し出しやすさを両立することは困難で、要求を満足する製品が無い

(2)課題(目的)
 重力下においてはほぼ弾性体として働き(すなわち流動し難く)、チューブから押し出そうとする変形が加えられたときには流動し易い、水性接着剤を開発する。
 例えていえば、マヨネーズやケチャップのような水性接着剤を開発するということです。

(3)課題解決手段(すなわち本願発明)
 この課題を解決するために(目的を達成するために)、貯蔵弾性率G’と、ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値を上記数値範囲とする。

(4)課題解決手段で示された2つの指標の意味
 ここで、課題解決手段で示された両指標は「貯蔵弾性率G’=重力下でどの程度流動し難いかの指標」、「ずり速度200(1/s)におけるずり応力τ=チューブを押したときの流動し易さの指標」となります。

 そうすると、請求項1の記載は、重力下での流動し難さと、チューブを押したときの流動し易さの目安を、単に数値化しただけにすぎないことになります。そして、この両指標は、出願人が明細書で例示している「ハーケ社のレオメーター」等で測定して数値化できることはレオロジーを扱う技術者にとっては周知の事実です。また、本願で示された両指標の数値範囲内にある物質が、このような性質を持つであろうことも、この分野の技術者にとっては常識的なことといえます。 

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