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数値限定発明についてTweets(4)

2012.05.24

>Tweets(3)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

2-2.各数値限定の目的と進歩性有無の判断基準

 複雑化を避けるために、前提として、上記(a)~(c)のケースでは、審査時に他のケースに分類されるような別の公知技術は見つからないものとする。

(1)(a)の、同質ではあるが公知技術より有利な効果を見いだして出願したケース

 このケースは、上記審査基準の判断基準②が適用され、公知技術に対して限定した数値範囲内で「顕著な効果」を有することが「進歩性有り」と認められる条件である。そして、その顕著な効果は数値限定の範囲内全てで発揮される必要がある。すなわち、公知技術がすでに「この辺りが良好」と指摘している範囲の中、あるいはその範囲と重なった部分が本願発明であるから、進歩性ありと認められるハードルが高いのである。

 ここで、この「数値限定の範囲内全てで顕著な効果を有する」を言い換えると、判決文や多くの論説で使用されている「数値限定が臨界的意義を有する」ということになる。すなわち、限定した数値範囲の内外で「不連続的に変化する効果の差異が存在する」必要がある。

 つまり、二次関数のような上または下に凸の放物線程度の効果の差では進歩性は認められないのである。変数xに対してyの値は連続して変化しているからである。なぜ、放物線程度の効果の差では進歩性を認めないのか? 審査基準は次のように説明している。

 「実験的に数値範囲を最適化または好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、通常はここに進歩性は無いものと考えられる。」すなわち、公知技術の延長線上(放物線上)に位置される程度の性能向上では、「技術者として当然実行することであって、そこには優れた創作能力の発揮はなく、よって進歩性は無い。」ということである。

 しかし、多くの場合、この数値範囲に臨界的意義がありそうだと予想して実験しているわけではない。そのほとんどは最適化を目指して実験を繰り返しているのである。たまたま臨界的意義という鉱脈を掘り当てた場合に進歩性が認められる、はっきり言って、「創作能力云々」の話ではなくて、結果論で判断されるのである。

 (2)(b)の、同質の効果であるが公知技術とは異なる数値範囲を見いだして出願したケース

 このケースは、少し判断が難しい。「限定した数値範囲が公知技術の数値範囲とどの程度かけ離れているかによって判断基準が異なる」とする論説がある。そして、数値範囲が大きく異なれば、「数値限定」以外に「数値範囲が大きく異なる」という差異が有り、それが「当業者が容易に想到できない」ものであれば、上記③に分類されるとする考えである。例えば、「公知技術の成分Aの配合割合が10~50%であるのに対して、本願は0.01~1%」のような場合である。③は、本願発明に数値限定があるが、他に進歩性有りと判断できる部分があれば、数値限定は進歩性判断において考慮しないケースである。

 一方、その数値範囲がそれ程離れていない場合は、(a)のケースに準じ、②に分類されて「臨界的意義が必要」となる。しかし、どの程度かけ離れていれば③に分類されるのか、②または③に振り分ける境界はどこかにあるのかについては判然としない。また、②と③の境界の判断に参考となる判例も、筆者の知る限り見当たらない。

 したがって、出願に当たっては、「臨界的意義が必要」と判断されることを想定して、明細書の記載に布石を打っておくことが安全と思われる。 ・・・・つづく

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